CV:内田雄馬
スメールの著名建築デザイナー。多くの物事に対し、行き過ぎた思いやりの心を持つ。唯美主義者だが、現実に悩まされている。
誕生日:7月9日
所属:個人デザインアトリエ
神の目:草
命ノ星座:極楽鳥座
名刺:天穿の庭(てんきゅうのにわ)…「建築をデザインするときは、こう考えるといい――僕たちは今、天穹と星々をも越える永遠を構築しているのだと。」
紹介文:スメールの著名建築デザイナー。多くの物事に対し、行き過ぎた思いやりの心を持つ。唯美主義者だが、現実に悩まされている。
人材輩出の国スメールで「デザイナー」と言えば、浮かび上がってくる名はいくらでもある。しかし「建築デザイナー」と言えば、多くの人は無意識にこの名前を思い浮かべることだろう――カーヴェ。
教令院妙論派出身の彼は、直近の数十年で最も優秀な建築デザイナーとされ、妙論派の星と称される名誉をも得ていたほどだった。しかし残念なことに、カーヴェ本人はこの称号に心動かされはしない。
名声と肩書は彼が認められていることの証だが、同時に彼を束縛するものでもあるのだ。例えば今、カーヴェは自身の破産を恥じている。無名の者であれば破産を公言できるが、有名な建築デザイナーがそのようなことはできない。過剰な誠実さは、信頼の危機をもたらすのだから。そのような事情があって、面子の問題からカーヴェはこの話題を避け、必死に楽しく気楽に生きているフリを続けている。
幸い、彼の高いデザイン能力と深い美学への造詣といった才能を買っている人々は、この偽りのことも信じている。
――大建築家であるカーヴェが、多くの悩みなど抱えているはずがないだろう?
★イーワーンにて謁見(いーわーんにてえっけん)
★キャラバンサライの轍(きゃらばんさらいのわだち)
★ジッグラトへの供物(じっぐらとへのくもつ)
★アパダーナの饗宴(あぱだーなのきょうえん)
★聖なるカーバ(せいなるかーば)
★パイリダエーザの理想(ぱいりだえーざのりそう)
★円規定則(えんきていそく)
★精緻なる絵図(せいちなるえず):メラックは古代技術による産物を基に改造されたもの。測図関連の仕事をサポートしてくれる以外にも、何か他の機能があるかもしれない…
★ムカルナスの描像(むかるなすのびょうぞう):「一つひとつの建築物のスタイルには、それを創造した人の、世界に対する独自の考えが含まれているんだ。この点から見れば、建築そのものが人々の記憶の凝集物だと言えるだろう。」
★創造者の役目(そうぞうしゃのやくめ)
★芸術家の奇想(げいじゅつかのきそう)
★積算士の技巧(せきさんしのぎこう)
学生時代のカーヴェは課題のために奔走し、幾度も同級生たちと様々な遺跡を訪れた。当時の参加者たちはみな若く、陵墓の奥深くまでは入れなかったが、収めた成果はかなりのものだった。
しかし、古代遺跡の探索にリスクは付き物だ。いくらプロとは言っても、参加した限りは、危険な目に遭うことは避けられない。とある調査の途中、学生たちのチームはかなりの危機――小部屋の崩壊に出くわしてしまった。カーヴェが、同行していた二人の妙論派の学生を陵墓から全力で押し出していなければ、彼らは中で命を落としていただろう。カーヴェ自身はと言えば、散々な目に遭った挙句、なんとか軽傷を負ったのみで脱出したが、同級生たちの気持ちの変化を止めることはできなかった。他人が成果を得られるようにカーヴェは手伝っているつもりだったが、結局大半の人は現状と己の能力の差に戸惑い、最終的には課題から降りてしまった。
カーヴェは「神の目」の存在を知っており、不思議な証は危険が訪れた際に与えられるものだと思っていたが、調査が進むなかで生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされてもなお、彼は神から眼差しを向けられず、己の力を尽くしてみんなを救い出した。
数年後、カーヴェは卒業して教令院を離れ、職に就いた。もう長いこと、彼は神の目のことや、それがどんな人間に与えられるかについて、考えなくなっていた。願いある者だけが、神の眼差しを受けられると言われている。しかし恐らく自分は、そういった人物ではないということだろう。
その後、カーヴェは味気ない日々を送っていた。彼はデザインで忙しくなり、一時的に追い詰められていた。芸術が認められず、彼は疲弊していたのだ。母はフォンテーヌで新しい家庭を築き、不動産やその他の財産を息子である彼に残した…どれも彼にはどうすることもできない、論ずる価値すらないようなことだった――
アルカサルザライパレスが突如として現れた死域に破壊されたあの日まで。カーヴェは廃墟に座り込み、一晩中考えた。そして突然、とある考えが脳裏に浮かんだ。何も顧みず、すべてを捧げて目の前の夢を掴みたい…そう思った彼は家に戻り、関連機構に連絡して手続きを行った。偶然にも、不動産の売買がちょうど盛んな時期だったため、カーヴェは僅か半日で住宅を売却し、工事に投入するための資金を回収できた。
様々な雑用を処理し終えると、カーヴェは最後に長年生活していた旧宅に戻った。彼はピタパンで小さなアルカサルザライパレスを創り上げると、それをプレートに載せ、ソースとヨーグルトをかけて、精巧なデザートに仕上げた。
この料理は難しいものではなく、幼かったカーヴェは、父からこれの作り方を学んだ。しかし、父が亡くなってからは、あまり作らなくなっていた。今日はただの気まぐれで、久しぶりに味わいたかった。
厳密に言えば、これはカーヴェの一番好きなデザートではない。それでもこれを食べるために、築きあげられたアルカサルザライパレスを崩さなければならないとき、彼は喉の奥に苦いものを感じた。
そうして砕かれたピタパンの中には、輝かしい「神の目」が静かに横たわっていた。
カーヴェは信じられない心持ちでそれを眺めた。何年も遅れて、それはやっと彼の目の前に現れたのだ。それはあまりに眩しく、まるで天上にある幻の国のようだった。しかし幸い、それは理想と比べれば、こんなにも近くにある存在だ。
キャラクターストーリー1
アルカサルザライパレスや教令院を歩く者は、今でもあらゆる場所で妙論派の学生たちが繰り広げる、卒業した「カーヴェ先輩」に対する想像や議論を耳にすることだろう。同じ学院の生徒たちにとって、カーヴェはここ数十年における妙論派屈指の人材であり、名高いデザイナーなのである。優れた作品で、カーヴェは教令院の歴史に己の名前を刻み込んだ。妙論派の学生たちが道端で彼について議論する場面を目にすることがあれば、カーヴェの業績について聞くことができるはずだ――アルカサルザライパレスを単独でデザインした上に、オルモス港のランドマークとも言える古灯台を修復し、港口のリフトや貨物運搬システムを改造。おまけに森林や圏谷地形の空間最適化方法を最初に発表する…などなど。
これほどの成果を収めた「カーヴェ」の名は多くの人にとって、もはや単なる名前ではなく、ある種のデザイナーキャリアの代名詞にもなっている。多くの人が、カーヴェのような経歴を辿ることを望んでいるのだ。学院でずば抜けた才能を見せ、卒業後は大手の各建築関連事業者から内定を得て、数年のちには独立して個人名義で仕事をする…
しかし、世間が理解している彼の経歴は、ここまでだ。数々の業績の裏に隠された真実を知る者はほとんどいないが…それこそが、彼のずっと隠していることだ。無論、彼が優秀なデザイナーであることは確かだが、そんな彼も人々が思い描くような完璧な生活は送っていないのである。
過去の経験から、彼はこう言うだろう。誤解は避けられないトラブルだ、と。人はたまに、固定観念に自己の判断をゆだねてしまうことがある。例えば「デザイナー」と聞いて、人々が最初に思い浮かべるのは、ほんの少し指を動かして筆を走らせるだけでお金を稼ぎ、名声を手にできるという夢であろう。また、「芸術」と聞けば、浮かんでくるのはチャラチャラとしていて自己中心的で、陰気かあるいは短気な性格で、あごで人を使う…などといった、どこから来たのかも分からない変わった人物像だ。
しかし、カーヴェは前述のイメージとはまったく合致しない。筆を走らせるだけでデザインを完成させることなど出来るはずもなく、いつも一つひとつの仕事と真剣に向き合っている。彼は成功者の恰好をしているが、その実、報酬だけでプロジェクトの良し悪しを判断することはない。スメールの大多数を遥かに超えるデザインへのこだわりを持つ彼は、デザインの根本に芸術性を置きながらも、人文的意義や実用性をおざなりにしたりはしない。そのため、プロジェクトを進める中で、何かを犠牲にせねばならない場面が出てくる。それは、時に休憩時間であり、時に芸術の装飾的効果であり、そして時に己の報酬だ。
長年の下積み期間を経て、カーヴェはついに成功した。アルカサルザライパレスが落成した後、彼はスメールに名を轟かせたのだ。同業者は巨木の上に聳え立つ伝説的に優れた宮殿に感嘆の声を漏らし、デザイナーの自由奔放な想像力に驚き、様々な価値を融合した美しさに酔いしれた。――建築的機能と文化的佇まいを集大成した、贅沢な工芸美と建築自体の精確さ、精巧さを併せ持つ存在。この作品は山々に包まれた辺り一帯の雰囲気を一新した。アルカサルザライパレスが大いに成功した試みであることを、認めない者はいないだろう。
しかし、彼自身のポリシーやキャリアでの境遇などの積み重なった問題から、カーヴェがこのプロジェクトで破産した件について同業者たちは未だ何も知らない。真実は、成功の裏に隠された苦労のように、カーヴェが努力して隠し続けているのだ。
キャラクターストーリー2
カーヴェはスメールの典型的な学者家庭に生まれた。父は明論派出身で、教令院に勤めていた。母は妙論派の卒業生で、カーヴェと同じく有名な建築デザイナーだ。両親の影響を受け、カーヴェは子供の頃から建築デザインに興味を示していた。両親が買ってくれた積み木で彼が遊んでいたとき、両親はリビングに座っていたものだった。
たとえ言葉が交わされなくとも、家とはある種の「雰囲気」として、そこに存在するものである。カーヴェの「家」に対する価値観は、あの頃に形成されたものだ。
しかし良い時というのは、いつまでも続くものではない。カーヴェが教令院に入る前のある年、父は息子に背中を押されて、教令院が主催する学院トーナメントに参加した。試合自体は複雑なものではなかったが、有望な優勝候補とされていたカーヴェの父はチャンピオンになれなかった。そればかりか、試合が終了したのち、失踪してしまったのだ。
その後、父が砂漠で事故死したという訃報が届くまで、そう時間はかからなかった。あまりに突然の出来事に、残された母子は混乱に陥った。特に、カーヴェの母はかなりショックを受けた。生来敏感な人であったために夫の死からなかなか立ち直れず、長い間不安感を抱え、憂鬱な気分から抜け出せないでいるようだった。そしてカーヴェもまた目を閉じて眠るたびに、出かける直前に冗談を言い、「いい手土産を持って帰る」と約束してくれた父の姿を何度も夢に見た。幼いカーヴェは気づいてしまっていたのだ。もし自分が提案しなければ、父は試合に参加しなかったかもしれない――そうであれば、失踪することも、死ぬこともなかったのかもしれないと。しかし彼がどんなに願おうとも、起きてしまったことは変わらない。父の死も、母の苦しみも…取り返しのつかないすべての出来事の起因は、自分が口にした、たった一言だった。その日から、カーヴェの人生はすっかり罪悪感に囚われてしまった。
父は善良な優しい人で、こういう人と一緒に暮らせて幸せだと、母は言っていた。父が亡くなった後、母が再び笑顔を見せることはなかった。こうして、「家」は暖かい日の差し込む聖域から、冷たく淋しいただの部屋に変わり果てた。ソファに座った母が、己の震える両手を呆然と見つめる姿を、カーヴェは何度も見た。母の頭の中は真っ白になってしまったようで、彼女は何も描けなくなった。そんな母を見るたびに、カーヴェは見えない手によって押しつぶされたような心地になり、自分に問いただした――僕があんなことをしなければ、この家はこうならなかったはずなのに。
当時のカーヴェはまだ幼く、できることも限られていた。しかし、負い目を感じていた彼はできる限り母に付き添い、落ち込んだ表情を見せずに、ありとあらゆる面で支え続けた…焼け石に水だと分かっていても。
落ち着かない日々が過ぎ、教令院に入学する歳となったカーヴェは、妙論派に入った。息子が入学すれば、母子が一緒にいる時間が減ってしまうのは仕方のないことだ。気分転換にと、カーヴェの母はフォンテーヌへ赴き、その期間中に現地で仕事の誘いを受けた。スメールに戻った彼女は、カーヴェにその良い知らせを伝えた。母がフォンテーヌに行けば、寂しい生活を送ることになると分かっていたカーヴェであったが、それでも彼は喜んで賛成した。そして母がスメールを発つ日、見送りに出掛けた。
…船が出港してからかなりの時間が経っても、カーヴェはずっとそのまま、遥か遠くを眺めていた。どうしようもなく名残惜しかったが、母にとってはこの哀しすぎる場所を離れるのが最善だったのだとも分かっていた。彼女に幸せになってもらうために、カーヴェは己の孤独な気持ちを認めないと決めた。自分はもう大人で、一人で生活しても絶対に大丈夫だと、母と約束したのだ。もしもある日、孤独に苦しみ、バラバラになった家族のために眠れなくなったとしても、それは自分が父に試合への参加を示唆したことの罰だ。父を死なせ母を苦しませた罪人には、どんな報いがあろうと当然のはずで、自分はこの烙印をずっと背負って生きていかなければならない。
こうした考えが、その後も彼の中にはあり続けた。家庭はカーヴェに思いやりの心を教えたと同時に、彼から人を傷つける能力も奪ってしまったと言える。そのためか、それからの幾年も、カーヴェはずっと個性と理想に囚われ、求められるままにどんな人のことも力を尽くして助けた。抗おうとしたこともあったが、本気で他人と敵対できなかった。そして常に善行を重ねているのに、それでも不安を感じずにはいられず、時に罪悪感に蝕まれた。それだけではない…彼は純粋な好意に応えることができない。何かを決断する度に、自分は罰を受けてしかるべきだと、苦しみの中にこそ慰めがあるといつも考えてしまうのだ。
カーヴェを彫像に例えれば、彼はどの角度から見ても完璧だ。しかし、核となる脆弱な一点さえ見つければ、それだけで全体は完全に打ち砕かれてしまう。
キャラクターストーリー3
卒業直後、カーヴェは同じ学院の先生や同級生のチームでプロジェクトの手伝いをしていた。デザインを任されていたが、駆け出しの彼は作業量の重さに押しつぶされていた。しかし強がりの彼は弱音も吐かず、すべての時間と精力を仕事に注ぎ込んだ。丸二年間、彼は様々なプロジェクトに呼び出されて、昼夜を分かたず他人のために働いた。
十分な経験を積んだ後、カーヴェは協力していたプロジェクトを離れ、個人の名義で仕事を受け始め、彼のスタイルを気に入ってくれる客を抱えるようになった。彼に設計を依頼してくる人は少なくなく、これが彼の事業の始まりだった。頑張り屋の彼はまとまったお金を貯めることができた。しかし、しばらく経つと、カーヴェはキャリアのスランプに陥った。実際の市場は学校でのデザインとはうって変わって現実的で、ある意味、現金とも言えるものだったのだ。それに、顧客の要望は指導教員の要望よりもさらに満足させにくい。また、スメールの学術的風潮もカーヴェに大きな影響をもたらした。誰かが言っていた通り、自身の理想とキャリアは簡単には実現できない…そうカーヴェは気づき始めた。
スメールの学者たちは新たな流派や観点を次々と生み出していく。そうした中で自己批判、自己懐疑を始める者は少なからずいたが、社会の進歩と変化はこれらの考え方を後押ししたのである。過去に称賛されていたものは、いつか批判の対象になるかもしれない…書籍や、芸術がそうだったように。
真に芸術に打ち込んでいる者以外に、芸術家がスメールでどんな扱いを受けているか、知る者はいなかった。教令院の学術的成果への崇拝と渇望が激しくなるにつれて、学者たちはますます単純に学術そのものと実用的な技術のみを信奉するようになった。六大賢者のやり方は極端になり、「芸術は無益」という見方がだんだんと主流になっていった。芸術従事者はのけ者にされ、芸術と関連する学科でさえ、いつの間にか芸術の要素を取り除くようになった。
カーヴェが担当していたプロジェクトの多くは、流れ作業だと思われていた。彼がプロジェクトのために提案した様々な美しいデザインは、「意味のない過度な装飾」「プロジェクトに必要なのは実用的な建築のみ」と言った理由で、すべて却下された。彼はかつて、人々のために芸術の美と実用的な価値を兼ね備えた良いデザインを目指していた。しかし、芸術が笑いものにされ、人々が芸術の存在する必要性と価値を否定してしまえば、カーヴェは自由にデザインすることなどできない。建築は芸術であることを貫くカーヴェは、芸術が無益という見方に断固反対するが、職業上、彼にはどうしても技術的サポートと投資が欠かせないのだ。そうすると、彼は輪から脱することも、自分の本音を言うこともできない。もしそんなことをして資金提供から手を引くと言われてしまえば、多くの人を巻き込んでしまうからだ。
夢とキャリアの挫折を経験したカーヴェは、長い休暇を取った。家に帰ると、思いがけないことにフォンテーヌから手紙が届いた。母からの手紙にはこうあった――残りの人生を託す相手を見つけた、フォンテーヌで再婚する、と。不安と期待を胸に、彼女はこれを唯一の肉親に伝えたのであった。
カーヴェは手紙の返信で母の幸せを願うとともに、心から祝福した。そして、フォンテーヌでの結婚式にもはるばる出席した。参列者は僅か数名しかいない、簡単な式だった。再び母の笑顔を見ることができて、カーヴェはとても嬉しかった。しかし、次に襲って来たのはどうすればいいのかわからない、行き場のない感覚だった。
母はスメールにあるすべての財産をカーヴェに残した。三日後スメールに帰った彼は、家の中がどんなに空っぽだったかということに、改めて気が付いた。ソファに座っただけで、人生に孤独を感じてしまうほどに。…まさに、昔の偉い学者が言った通りだ。「正しいと思うことをしなさい、たとえすべてを捧げることになっても」――
キャラクターストーリー4
建築業界にいる期間が長くなるにつれて、社会の現状に対するカーヴェの不満は募っていった。そんなある日、彼は突然転機に恵まれた。大商人のサングマハベイ様が彼を訪ね、豪邸を作ってほしいと依頼してきたのだ。
業界でかなりの名声を博する「サングマハベイ様」が、実はドリーという、莫大な富を築いた気前のよい人物であることを、カーヴェは彼女に出会うまで知らなかった。彼女が邸宅に求めたたった二つの要望は、「広く、豪華に」。カーヴェはデザインのスタイルや細かい要望についても聞いてみたが、ドリーはさほど関心がないようだった。カーヴェが今までに抱えたすべての顧客と比べても、ドリーはかなり変わっていた。彼女は商売をするが、学者が何を考えていようがあまり気にしない。彼女が豪邸を静かでひと気のない場所に建てたい理由は、商売上必要だからだということらしい。深くは尋ねずに、ただ人に畏敬の念を抱かせるような豪邸を作ってくれればいいと、彼女はカーヴェに助言した。そして芸術性に関して、ドリーは感心も示さなければ、反対することもなかった。
目の前にあるこの仕事がどれだけ有難いものかということに、カーヴェはすぐ気が付いた。制限なしの豪邸――つまり、彼はやりたいデザインを思いっきり貫き通せるのだ。依頼主が資金を出し、依頼を受けた人は力を尽くす。もとより、これが商売のあるべき姿だ。学術の流派によって本領発揮を制限されるなど、本末転倒。突如溢れ出たやる気のままに、カーヴェは徹夜で設計案を作り、依頼される身でありながらドリーに更なる修正を提案した――本当の大商人様は山に住むだけじゃ足りない。歴史に名を刻む豪邸にするためには、もっと美しく、もっと伝説的なものにしないと!庭を付けるのはもちろん、そこに植える花も厳選しなければ。専門的な植物学者に意見を聞こう。構想は大胆に、提案は着実に。建物自体は実用性に重みを置きつつ、豪華にして…サングマハベイ様ご指定の倉庫と休憩室も増設しないと。場所は…北の山の崖が良さそうだ。これでサングマハベイ様は毎日、目を覚まして窓を開けたときに、山と川の絶景を目にできる。
ドリーは再三、崖はやめたほうがいいと止めたが、カーヴェは職人魂と芸術を追求するため、依頼主を全力で説得した。そうして始まった大掛かりな工事はカーヴェの監督の下、昼もなく夜もなく着実に進んでいった。
だが、理想とは叶え難いものだった。カーヴェはあらゆる要素を熟考して場所を選んだのだが、その年、死域の増加が大幅に加速するということだけはどうしても予想できなかったのだ。七割ほど工事が進んだ、ある静かな夜のこと。ひっそりと生まれた死域に、完成したものはすべて壊されてしまった。あちこちに散らばる残骸を目にしたカーヴェは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。これを聞きつけてやってきたドリーは憤慨し、プロジェクトから降りるようカーヴェに命じた。すぐにレンジャーたちが駆けつけて死域を処理したが、壊れた建物が戻ってくることはなかった。
このような機会は二度と得られるものではないと分かっていたカーヴェは、せめてアルカサルザライパレスが完成するまでは残りたいと、ドリーに何度も懇願した。しかしドリーは鋭く肝心な問題を指摘した。場所の変更を積極的に提案したのはカーヴェだった。建物が壊され、資金が水の泡になった今、彼女が責任を追及しなかったとしても、どのみち工事は続けられないだろう。もし建て直しになったら、損した分の資金は誰が出すのか――と。
カーヴェは廃墟に座り込んで、一晩中考えた。彼には貯金と、両親が残してくれた住宅がある。そこはかつて彼の「家」であったが、今やただの抜け殻だ。そもそも、「家」とは何なのか?建築デザインに携わる彼は、誰よりもよくその違いを分かっていた――家族を失った建物は、ただの家屋だ。本物の「家」なんかじゃない。
夜が明けると、カーヴェはスメールシティに戻って家を売り払った。そうして得たモラと、貯金、そしてドリーが支払ってくれた報酬をすべて工事に投じ、七割分の資金の穴を埋めた。足りない部分はドリーに立て替えてもらった。
そして美しく晴れたある日、ついにアルカサルザライパレスが落成した。カーヴェは己のすべてを捧げて、己のものではない伝説的な宮殿を作り上げた。プロジェクトは終了したのに、彼は一モラも得ることなく、そればかりか後半の工事が予算を超えたせいで、依頼主に大きな借金を作ることとなった。カーヴェは表面上抗議したものの、借金の現実は避けられないことを、心の奥底では分かっていた。そして、彼の心はまたも罪悪感に苛まれていた。サングマハベイ様は賢い商人だ。カーヴェは依頼主のためではなく、自身の理想のためにこうしたのだと一目でわかっただろう。
博打打ちがすべての財産を自分の理想に賭けるところを、商人が止めるわけがないのである。建築も所詮は商売だ。しかし、理想の価値というものは測ることができない。その後、カーヴェが帰る場所をなくしたのは、また別の話だ。
キャラクターストーリー5
破産した後、カーヴェはしばらく落ち込んでいた。アルカサルザライパレスは、様々な出来事で出来た彼の心の穴を一時的に埋めてくれたが、同時に彼に証明した――理想を叶えるには、いくら捧げても足りないということを。彼は戸惑い、モラがなければ何もできない世の中に苦しめられた。幼い頃から強がりだったカーヴェは、破産して懐に小銭しか残っていないことを同級生たちに知られたくなかった。仕方なく酒場でやけ酒にふけると、一本飲み干した後、テーブルの横で酔いつぶれてしまったようで、起きても同じ場所にいた。
酒場のマスターであるランバドがいつも好意で彼に席と無料の飲み物を取っておいてくれるもので、お返しに、カーヴェは酒場の二階にある特別席をデザインし直してあげた。たまに酒場で教令院の学友に出会うこともあったが、カーヴェはここで酒を飲みながらアイデアを練っているフリをした。そうしてカーヴェは酒場に半月以上も居続けた。その期間に、彼はもう友人とは呼べなくなった「彼」に再会したのである。
カーヴェの昔の友人と言えば、知論派出身の現書記官アルハイゼンを抜きには語れない。学生時代のアルハイゼンは同年齢の者たちよりも遅れて入学したが、成績はずば抜けていた。人々は高い点数を取った学生がいることのみ知っていたが、それが誰で、普段どこにいるのかまでは知らなかった。その学生のことと言えば、妙論派の年配学者までが首を横に振り、賢すぎて扱いにくい天才だと評するほどだった。
その年、カーヴェは母との離別を経験したばかりで、孤独な日々を送っていた。彼は偶然図書館でこの後輩と出会い、好奇心に駆られるまま話しかけた。こうしてカーヴェは知論派の天才アルハイゼンと知り合ったのだ。しかしその後…一方的な思い込みに頼って友人を作ろうとしてはいけないと、時間が証明することになる。自分より二歳年下のアルハイゼンは才能と知恵に富んでいるが、個性や人となり、学術の方向性から理想と観念に至るまで、すべてが自分とは真逆の人間だということにカーヴェはすぐ気が付いた。
学院にいた頃、カーヴェは様々な思い出を作ったが、最も不愉快だったのは、やはりあの共同研究課題だ。二人は互いに才能を認め合い、古代建築と古代文字および言語学の研究を行うプロジェクトを始動することに決めた。カーヴェはアルハイゼンに、研究チームの提唱者になることを勧めた。最初、研究グループには他の学生もいたが、課題が進むにつれ、みんなついて来られなくなった。個人間の、あまりに残酷で直観的な才能の差に、カーヴェは初めて気が付いた。教令院は才能と学術資源を限界まで結び付ける。そのため、人々はある理屈を切実に理解している。アルハイゼンの言葉を借りると、一部のことに関して上限を決めるのが才能で、下限を決めるのが努力だという。一般人と天才はいずれ現実的な要因によって分けられるのだから、属さないグループに無理やり入ろうとする必要はない――しかし当時のカーヴェは、それらは結果ではなく過程にある障害に過ぎず、知恵は多くの人によって共同で開発されるべきだと、頑なに考えていた。これ以上脱落者を出さないために、カーヴェは他の学生たちがやるべき仕事まで、己の時間と体力を割いて処理し、重い負担を自ら背負った。アルハイゼンはこれに始終反対していた…カーヴェがやることは理想主義的すぎる、と。学術は慈善事業ではないし、一時凌ぎの手助けでは現実を変えられないのだ。このようにして二人の意見は別れた。
そしてあるとき、ついにチームに残ったメンバーはアルハイゼンとカーヴェの二人だけになった。積み重なった問題は限界点に達し、一気に爆発した。カーヴェは、アルハイゼンは個人主義的すぎた、より多くの人を助けてやればもっとみんなに受け入れられたはずだと主張した。一方アルハイゼンは、カーヴェの現実離れした理想主義は現実逃避にすぎず、いつかは人生の負担になる。そしてその根源はカーヴェの内にある、避けられない罪悪感から来ていると指摘した。ここまで話してきて、何よりもカーヴェの心を刺したのは、最も親しい友人の核心を突く言葉だった。アルハイゼンは彼が長年直視出来なかった事実を突き付けた。そうしてカーヴェは初めて、現実に傷つけられた痛みを感じ、賢すぎるこの男と友人になったことを後悔したと宣言した。
別れた後、アルハイゼンはためらいもせず論文から署名を削除し、カーヴェは怒りのあまり、己が担当した箇所の論文を破った。しかし、しばらくするとまた後悔して、それらをかき集めて貼り合わせたのだった。カーヴェはあの友人を変えられないと気づいた。逆もまた然りだった。
後日、二人は学術的刊行物に何度も正反対の意見を出し、互いの論点に反駁し合った。『キングデシェレト文明の古代遺跡における古代文字と建築デザインの方向性についての解読』の研究はすでに、学術界に著しい進展をもたらしていた。言語学における成果について言えば、一部の古代文字における、欠けていた文法的理論の空白を埋めたおかげで、複数の重要な古文書の解読を可能にした。建築学における成果もなかなかのもので、一部スメールの特殊地形における家屋の耐力構造を最適化し、偏狭の地に住む民の生活を大幅に改善した。教令院はこれを奨励して、この研究プロジェクトに特別な研究場所を提供した。しかし、人材不足と、主たる研究者の価値観のすれ違いによって…このプロジェクトは最終的に中止となった。
研究課題の失敗は、カーヴェの人生における、消せない過去になった。あれから数年間、何度も挫折を経験したカーヴェは、独りよがりの考えを堅持することが必ずしも役に立つとは限らないことをようやく認めた。すべてを失って初めて、彼は過去の友人の言葉に含まれた深意を理解した。――何にも頼らず天上の花園へと登ろうとすれば、足を踏み外して落ちて死ぬことは避けられない。カーヴェは天才でありながら群集に憧れ、のけ者にされることを無意識に恐れている。彼とアルハイゼンの違いは、まさにそこにあった。
時を酒場のテーブルへと戻そう。それは数年ぶりの再会だった。カーヴェはたまたま酒を買いに来たアルハイゼンの出現に驚き、アルハイゼンは彼が置かれている最悪の現状を一目で見破った。長く生活に追い詰められていたカーヴェはすべての悩みを打ち明けた。問題はどうせ隠せるものではない。それに、唯一関係性が破綻しているこの友人の前でなら、取り繕う必要もなかったからだ。彼は様々な愚痴をこぼした。夜が更けて酒場をあとにし、かつて家だった方角を見るまで、彼は口を閉じなかった。アルハイゼンはと言えば、話を聞くと、またカーヴェのことを見透かしたように、答えにくい質問をした――「君の理想はどうなった?」
学者に間違いを認めさせられるのは現実だけだが、カーヴェは何が現実なのか分からなかった。逃げる必要など無いほどに美しい幻境を追い求める彼は、自分自身を代償として支払うことさえ厭わない。故に、この理想自体は間違いではなく、それを実現する自分の手段のほうが間違っていたと、彼は未だにそう信じていたのだ。
諦めてはいけない。たとえ彼の施した善行が埋め合わせのためだったとしても、それがもたらした結果は一部の人にとって有意義なことだった。理想の国に辿りつけなくても、その輝きが人々を惹きつけることは紛れもない事実なのだ。
幻のような現実…例えば、帰る場所をなくした彼がひょんなことから昔の友人の家に住み着いていること。この書記官名義の不動産は、まさに当時教令院が提供してくれた研究所を転用したもので、あの頃カーヴェがそれを放棄していなければ、余った学術資源も合法的なルートを辿って住宅になることはなかっただろうということ。アルハイゼンが無条件で善いことをしたりしないと知っているカーヴェは肩身が狭く、家事の手伝いを自ら提案したが、結局はすべての雑務を引き受けることになったこと…それらはドン底にいる人間にとって、一応の悩みではあるが、同時にあることを証明してもいる。変えられない友人こそが、人生の中で揺るぎない過去なのだと。理性と感性、言語と建築、知識と人情…これらの決して融け合うことのできないものたちは、いつも鏡の表と裏を、ないし世界全体を形作っている。
「古い絵日記」(「ふるいえにっき」)
革表紙の古く分厚い絵日記。落書きだけでなく、貼り付けられたものが大量にある。持ち主はこれを記念アルバムにしているようだ。
1ページ目:『建築製図の基本』、作:ファラナク。コメント:「母さんの著書。今こうして見てみると、印刷の色がちょっと思ってた色と違うかな?」
15ページ目:隠されたラフスケッチ。誰かの影が流砂に落ちるところが描かれている。隠された、というのは、前後の二ページがのりで貼り付けられているからだ。
コメント:「父さん…ごめん。何を書けばいいか分からない…ごめん。どうか僕を許して。」
26ページ目:一枚の課題申請表。コメント:「これは良い始まりだ。こんなに賢い協力者には、もう二度と出会えない可能性が高いだろう。」
31ページ目:学術メモと建築の図画。コメント:「僕たちの考えはまるっきり一致している。何一つ欠けのない、完全なものだ。」この一文は打ち消し線で消されている。
「僕たちの考えは相反するものだ。矛盾からは、多くの思弁と哲学が生み出される。」こちらの一文は残されている。
42ページ目:いったん破られ、つなぎ合わされた論文の表紙。コメントなし。
47ページ目:学内刊行物の抜粋。元のタイトルは不明だが、保存された本文の内容は以下の通りである。
「利己的な人間が知恵の終点を理解できないのは明白だ!たとえ誰もがこの広い学術の殿堂の一角を占めていると主張したところで、この俗世を形作っているものは結局人間であり、知識ではないということを、我々は理解すべきだ。媒体がなければ、知識は住処を失う。普遍的価値にはその名にふさわしい価値がある。大多数を否定しても、少数派の観点が認められるわけではない。例えば美学。美はずっと人の中にあった客観的な概念だ。一部の人間に理解されないからと言って、その価値を失うことはない。」
「自分自身を偉大な容器と考えているところが、まさに学者の狭隘なところだ。真理が個人のために存在している訳ではないと言うのは、分かり切ったことだ。この世の理は自然と共に在り、解釈されたかどうかに関わらず、それが変わることはない。客体の過信は自己開示とまったく同じであり、主体に自信がない現れなのだ。また、自身の観点に自信がある者は人称代名詞の複数形(例えば『我々』)を常用しない。俺なら一人でこの観点を十分に論証できると断言しよう。」
56ページ目:手書きの教令院の風景画。コメント:「もうここに戻ることはないだろう。でも、できればいつか、講師としてここに帰って来ることができたらいいな。」
次の二十ページは丸々、スケジュール表と図画付きのメモで埋まっている。筆跡は最初の方は整っているが、段々と雑になっていき、時間に追われていたことが見て取れる。メモを書いた人は仕事で忙しかったようだ。
85ページ目:ラフにしては繊細過ぎる、ある偉大な建築作品の設計図。コメント:「実行は可能だが、莫大なリソースが必要だ。細部を検討する必要がある。」
91ページ目:乱雑な落書き。めちゃくちゃになっている。コメントなし。
92ページ目:不動産の売買契約書。コメント:「衝動的だったと思う。でも、これが希望に満ちた可能性であることを考えると、どうしても抗えなかった。すべてがうまく行くといいな。」
101ページ目:いくつかの小さな落書き。コメント:「これでおしまいだ!書けない。明日はもう書かない。」
107ページ目:室内の設計図。ランバド酒場の二階のものらしい。コメント:「僕は果たして、もっと立派なことができるのだろうか?」
112ページ目:家賃の記録。コメント:「悪いことだとは言えないが、どうしてこうなったんだ!?あいつは絶対、理由もなく僕の身を引き受けたりはしない…ただ、僕はあいつに何ができるのだろうか?」
115ページ目:工具箱の設計図。コメント:「メラックは古代の言葉だ。これを工具箱の名前にしたい。『小さな光』という意味だ。何はともあれ、こいつが僕の言葉を本当の意味で分かってくれるといいな。」
挨拶
●初めまして…:こうして会えたのは喜ばしいことだ。近しいビジョンを持つ人といてこそ、会話も弾むというものだからね。
初めまして、そしてこんにちは。僕は建築デザイナーのカーヴェだ。僕の協力がいるということなら、まずは詳しい要望を伺おうか。
●世間話・美学:美の鑑賞というものを理解できるのは、ある種のいい品性だと言えるな。
●世間話・退屈しのぎ:家に閉じこもってばかりいないで、もっと出歩くんだ。
●世間話・改善:前の案にはまだ改善点が残ってる。締め切りまでもう少し直すとしよう…
●雨の日…:あれ?雨が降ってきたな。まずいぞ、傘は持ってきてないのに…
●雷の日…:いまの落雷を見たか?面白い形をしてたな!
●雪の日…:スーーーッ…やけに背中の風通しがいいな…それに、胸元も…
●晴れの日…:日光を浴びすぎると、眠くなるんだ。徹夜で仕事をしたときみたいに、頭がクラクラするよ…
●砂漠にいる時…:初めて来たわけじゃないんだが、毎度毎度暑すぎるんだよ…はぁ、どこかに涼しい場所ないかな…
●おはよう…:よく眠れたか?君の今日が順調で、かつ朝っぱらから機嫌を損なうようなやつに出会わないことを祈ってるよ。
●こんにちは…:真昼の日差しは厳しい…外に干してた建材はどうなったかな…
●こんばんは…:今夜は星が沢山見えるなあ。何だか、いい兆しだと思わないか?
●おやすみ…:頭を空っぽにして、すべての悩みを忘れよう。おやすみ。
●誕生日…:今日は君の誕生日だったのか?おめでとう!誕生日はとても大切な日だ。そして、一年の中で最も家族が恋しくなる日でもある。今日一日、君がご機嫌で過ごせますように。
自己紹介
●自身について・専門:専門分野の話となると、僕もプライドの高い方だと思うんだ。もっとも、ほとんどの学者がそうだろうし、むしろそれこそが僕たちの根幹を成していると言える。このプライドさえも失ってしまえば、自分にも他人にも、多くを求めることができなくなるだろう。
●自身について・芸術:芸術性は…僕が仕事で一番に求めるものじゃないし、そうなるべきでもない。品質と安全性こそが一番大切だ。だからといって、僕が一度でも芸術性を諦めたことはないぞ。何故なら、それが僕と他の人を根本から分かつものなんだからな。
●鑑賞について…:アルカサルザライパレスは見たことあるだろ?あれは僕の一番のお気に入りだ。僕はあの作品に、それはもう、他のやつには到底理解できないほどの心血を注いだ…ははっ、君たちは僕じゃないし、この業界に従事しているわけでもないから、きっと理解できないだろう。まぁ…たまには、人にも理解してもらいたいんだけどね。
●理想について…:
●その人の理想を見抜くことで、初めてその人の心に触れることができる…僕はずっとそう思ってる。だけど、理想とか夢とか…自分や人のそういったところに触れるのは、ある種のリスク、可能性を広げることにつながるかもしれない。そして、誰もがそれらに向き合える力を持ってるわけじゃないんだ。
●「神の目」について…:できれば、こんな言葉は口にしたくないんだが――「願いを持つことは、時には辛いことでもある」ってね。幸い、僕は自分の「神の目」のことは嫌いじゃない。
●シェアしたいこと…:自分が何のために創作をしているのか、これを理解している人は尊敬に値する。君もそう思うだろ?
●興味のあること…:素人は、妙論派建築デザイナーたちの専門分野を、土やら木材やらだと思いがちだが…これはあまりにも浅い見解だ。議論の必要もない。材料をくっつけるだけで建物が完成するっていうなら、それはこの学科の存在意義を否定しているようなものだ。建築設計は人類の文化の一環であり、芸術でもある。芸術が人から離れ、独立して存在することは不可能なんだ。使う人の気持ち、見る人の心境…僕はこれらについて常々考えを巡らせている。ああ、そうだ。芸術表現と人文的なニーズをいかに融合させるかというのも、とても重要だからな。
●カーヴェを知る・1:スメールでそこそこ有名?僕が?はははっ、みんな適当に言っているだけさ。自分では…まずまずかなと思ってるよ。ここに長く住めば、誰だって有名になれる。むしろ、目立たないままでいるほうが難しいんじゃないか。
君が僕のことを破産の件で知ったわけじゃないことを祈るよ、ふん…僕について聞きたいなら、僕のいいところをいくつか教えてやってもいいぞ。
●カーヴェを知る・2:教令院の学生になろうとか、思ってないよな?現実的な角度から助言しよう。たとえそうなっても、設計だけはやめておけ。設計は面白い、だけど本当に疲れるんだ。卒業したての頃、僕は先輩の下で働いていた…毎日こき使われ、がむしゃらに働いたよ。長いこと持ちこたえたけど、危うく過労死するところだったんだぞ。
●カーヴェを知る・3:人間の美意識を統一するのは難しい。だが幸い、美という概念は、比較的具体的なほうだ。美学の中には、基礎となる基準があると僕は思っている。美意識そのものを向上させることは不可能ではないとはいえ、沢山の時間を費やして積み重ねることが必要なんだ。もし、もっと詳しく知りたいのなら、僕を訪ねてくれ。
●カーヴェを知る・4:僕のことを「トラブルメーカー」って言う人もいるな。まったく、何だその言葉は?人が前に進む以上、他人や物事とのトラブルは避けられない。面倒事が嫌だってだけで、多くの事に目をつぶってしまう方がどうかと思うぞ。
●カーヴェを知る・5:休みの日には飲みに行くよ。酒は悩みを薄めてくれるんだ。ん?もちろん、ただの暇つぶしだぞ。
えっと…コホンッ!そんな目で見ないでくれ…わかったよ。山ほど悩みを抱えていることは認めるさ!やり残した仕事、解決できない難題、人と人のわだかまり…君は、そういうことに悩まされたりしないのか?
●趣味:音楽、建築、彫刻に絵画芸術、どれも時間をかけて鑑賞する価値のあるものだ。
今すぐ全部となると難しいが…興味さえ持っていれば、いつかすべてをマスターできるかもしれないな。ほら、少なくとも僕は演奏ができるぞ。
●悩み:悩みか…うーん、やはりパッと浮かぶのは金銭的なものかな。
僕は稼げないんじゃなくて、貯めることができないんだ。日頃から金を使う場面が多くて、気を抜いてしまうと…でもまあ、心配するな。これでも昔よりはマシになったんだ。トラブルに巻き込まれないよう、用心しておくよ。
●好きな食べ物:酒に温かいスープ、あとはクリームやチーズの入った料理かな。どれも僕の好物だ。ああ、新鮮なフルーツもいいな。
●嫌いな食べ物:熱くて辛いものは飲み込みにくいからダメだ。少なくとも冷めるまでは無理だ。
●突破した感想・起:悪くない感じだ、ありがとう。
●突破した感想・承:なあ、もう一回できないか?
●突破した感想・転:視野がさらに広がった…この感覚を、持ち続けていきたい。
●突破した感想・結:力が多ければ多いほど、できることも増える。たとえ、そのために代償を払うことになっても…たとえ、それが苦しみの上にしか成り立たない理想だとしても…僕は、引き下がりたくない。
関連キャラクター
★アルハイゼン:性格…あいつほどあきれたやつは…人間がどれだけたくさんいようと、二人と見つけることはできないだろうな!この言葉、たとえ本人を目の前にしたって言えるぞ。
あいつは頭がいい、それは君も知ってるだろう。賢いやつほど短気だというが…それは半分しか合ってない。特にあいつの場合はな――一般的な友好の定義に沿って振舞う方法をよく知ってるにも関わらず、ただそうしたくないから、しないというだけなんだ。
もし君があいつのことを性格が普通にいいとか、お堅くて機械みたいなやつだとか思ってるのなら、それはあいつのことを十分に知らない証拠だ。あいつの個性は強烈すぎて、普通の人間には理解できないんだよ。
複雑…確かに、アルハイゼンにはいくらか助けられてきた。もし学生時代の親しい間柄が続いていたとしたら…僕は今でもしょっちゅう、あいつに感謝の言葉を浴びせていただろう。けど…もうそんなことは口に出せないし、そんな気持ちを簡単に認めることもしたくないんだ。
まあ、何にでも善し悪しがあるだろ?色んなものがまるで運命のいたずらみたいで…これは、何回かやり直したくらいじゃ見抜けないんだ。もちろん、ああいうやつと知り合えるのも得難いことではある。あいつが自分の性格の特にひどい部分を抑えられたら、なおいいんだけどね。いや、そんなの不可能か。
→思いやり…あいつはすべての人や物事に対して、行き過ぎた思いやりの心を持っているんだ。彼自身があまりにひ弱なせいか、朝から晩まで、何でもないことで大騒ぎする日々を送っている。
詐欺…道端の出店で、主人が言った。手作りのキーホルダーが一つ売れるたびに、貧しい子供が一人、満足のゆくまで食事ができると。…カーヴェはそれを十個以上買ってきた。
スメールでは、医療や福祉ですら無償で提供されるんだが…はぁ、これ以上は言わなくても分かるな。
★コレイ:コレイか、もう僕らは結構な数会ってるんじゃないかな。あの子はアシスタントであると同時に学生でもあるから、いつもティナリのそばにくっついているよ。何に対しても真剣に取り組むし、辛抱強くて、同年代の子たちよりずっと頼もしい。
でも…あの子が色々悩み事を抱えているのは、一目見れば分かる。
→大マハマトラが彼を連れて来て、ここで一緒に食事したことがある。食前の果物が運ばれてきた辺りで、彼はあの頑固で理不尽なルームメイトについて話し始めた。口を挟むスキもなかったよ。それであたしたちは、食事が終わるまで笑いを我慢しながら頷くことしかできなかった。はぁ、本当に大変だったよ。
★セノ:セノは一見冷酷で非情に見えるけど、実は温かい心の持ち主さ。ある時、ティナリが一番の友達を紹介してくれるって言うから、彼の示す方を見たんだ…そしたら、えらく覇気のあるマハマトラが入って来るじゃないか…あのときは驚いたよ。だって、ああいうタイプのマハマトラが学者とそこまで親しくなるなんて…思いもよらないだろ。
まあ、僕は彼のジョークに耐えられなかったけどね。冬の日にあれを聞いたら、体中の毛という毛が逆立ってしまうだろうな。もしセノが、ティナリのところで一緒に食事しようって誘ってきたら、コートをもう一枚着ていったほうがいいぞ。
→ティナリやコレイが直接そうと言ったわけじゃないが、二人の目はすべてを物語っていた。俺のジョークより、カーヴェの体験談のほうがずっと面白かったってな。俺の感想?うーん…あんなことで笑ってしまうなんて、逆に面白いとは思うが。
★ティナリ:ティナリか。会えばわかるけど、優しくて知識も豊富、決して自分の知恵をひけらかすようなこともしない、とてもいいやつだ。彼は自分の仕事を心から楽しんでいる。
アルカサルザライパレスを建設してた頃、ガーデニング用の花の選び方を聞いたことがあるんだ。彼から返事の手紙をもらって、それからは他の問題が起きたときも助けてもらった。そうそう、セノと知り合えたのも、彼のおかげだ。
→カーヴェはスメールの有名な建築家で、あのよく目立つアルカサルザライパレスが彼の代表作なんだ。設計・施工当初に、お勧めの観葉植物について相談されたことがある。でもパレスが完成した後、彼はなぜか借金まみれになっちゃってね…今は後輩のアルハイゼンに助けられて、彼の家に居候してるよ。幸運って言うべきか、不運って言うべきか…
★ドリー:ドリーはアルカサルザライパレスの主で…なんだって?当たり前じゃないか、もちろんあれは僕のじゃないぞ。…そんなこと聞くなよ!
彼女は賢くて抜け目なく、自分のために他人を動かす方法をよく知っている。僕は…ぐぅ…とある理由で彼女から金を借りた。その件はとても複雑で…と、とにかく、彼女にはもう少し手加減してほしいもんだ、金の問題で僕を四六時中苦しめるのはやめてほしいね。…彼女、もっと優しくていい人になれると思うんだけどな。どうしてああなってしまったんだろう。
→彼は私と手を組んだことのある妙論派の一人ですの。教令院の一部の頑固頭と違って、自分の理想のために戦う人であり、私は彼を尊敬していますわ。だから、裏で彼にたっぷりとモラを貸して、私のアルカサルザライパレスを作ってもらいましたの。心優しいドリーの資金援助がなければ、今のカーヴェはなかったと言えますわね。
★クラクサナリデビ(ナヒーダ):クラクサナリデビ様はとても賢明な神だ。知恵に富み、常人とは比べようもない美徳を持っていらっしゃる。彼女は他人を理解し、包容してくれるんだ…スメールのような学術の国において、クラクサナリデビ様が落ち着いていられるのには…感心するばかりだよ。
たまに思うんだが、神様には悩みが何もないんだろうか?知恵は往々にして、困惑と共に生まれてくるものだ…そう考えると、一体何が本当の幸せなんだろうな。
→スメールの知恵を実践することにおいて、すでに彼の理解は本質にとても近いところまで辿り着いている。ただ惜しいことに、彼の把握している真実は、この国の主流にはなれないわ。え?彼って、アルハイゼンと同居しているの?この世にこんな可能性があったなんて…
★ニィロウ:ニィロウの踊り子としての力量は疑いようがない。ズバイルシアターがあんな役者を雇えるなんてな…ちょっと運が良すぎるんじゃないか。
あの子は性格が良くて、踊っているときもずっと笑顔、客席のみんなに励ましの言葉までかけてくれるらしいぞ。時間があったら、僕もニィロウの公演を見に行ってみよう。
→あの華やかなアルカサルザライパレスを建てたのは、彼だって聞いたよ。あんな作品を生み出せるなんて、作業中はきっと楽しくて夢中だったんだろうね。きっとみんなに披露したいという思いが、喜びやモチベーションに繋がってたんだと思うよ、まるで私がダンスを練習する時と同じみたいにね。
★ファルザン:ファルザン先輩は…率直にものを言うタイプなんだ。教令院の一部の生徒は彼女を恐れているらしいが、それも無理ないな。でも、別に先輩は悪巧みをしようと考えてるわけじゃなくて、ただ興味のある学問に専念しているだけだ。知論派の人間は付き合いにくいと言う人もいるけど、それはまあ…ははは…
君も、彼女から生徒にならないかって誘われただろ?確かに、先輩は時々気の狂ったセールスマンに見えることもある…だけど彼女の学識は本物だ。その点は間違いない。
→カーヴェは素質のある子じゃ。あやつと仕掛けの構造原理について話し合ったことがあるんじゃが、何というか…ロマンある考えと芸術的な思想にいささか溢れておった。しかし、自分なりの考えを持っておるのはなかなかに珍しいことじゃ。あやつは苦しい生活を送っておると聞いた。ゆえに、いつか経費が手に入ったら、ご馳走してやると決めておるのじゃ…待っておるんじゃぞ。
●スメールの有名な建築家。アルカサルザライパレスはその中でも傑作とされる。