旅人の心(たびびとのこころ)

故人の心(こじんのこころ):藍色の小花、花茎に誰かのリボンがついている。
…旅をしてきた旅人は、その花を胸元に飾った。

自由に生きるため、旅人は故郷の贅沢な生活を捨てた。
異邦の碧く澄んだ湖で、彼は顔が曇った少女に出会った。

「旅人か…いいだろう、誰でも」
「琴師?じゃ、その美しい言葉と音楽で私を侮辱しないで」
「ただ、私を覚えてほしい、今の私を」
「『祭り』の生贄として捧げられる前の私を」

故郷を捨てた旅人は、その花を胸元に飾った。
自分以外にはだれも愛せなかったから、すべて捨てることができた。
そんな彼だったが、約束通りに少女を覚えて、自分を危険に晒した…

帰郷の羽(ききょうのはね):青い矢羽、その中に旅人の消えていった眷恋が宿っている。
…希望は強権に引裂かれ、再会の約束は水の泡に変わった。
天地を流浪する旅人は、もう一度帰る場所を失った。

邪悪な笑顔が愛しい人を奪い、
終わりなき争いが心を滅ぼした。
優しい旋律も、楽しい旋律も、
すべて耳障りの音に変わった。

旧き友のために、最愛の人のために、二度と酒を交わすことができない杯のために。
自由のために、生命のために、笑顔を奪われた彼女のために。
覚悟を決めた旅人は最後の弦を響き、最後の矢を射た。

その命がだんだん異国の大地に沁みる時、旅人は空を仰いだ。
そうだ、この地の空も、故郷の空と繋いでいたんだ…

逐光の石(ちくこうのいし):世の移り変わりを経験してきた日時計、永遠に静かに時の循環を記録している。
…運命を追う旅人は、止まらぬ時の流れも追っていた。
貴族に立ち向かう楽団も、歴史の流れから永遠に消え去った。

長い旅の途中で、どんな時計でも機能を失ってしまうかもしれない。
永遠に回り続けるのは、月日の光に頼る日時計のみ。
形のない時間を捕むため、旅人は光と競争した。

貴族たちの華麗な屋敷も、暴政を敷くために家を失った楽団も、
同じ姿で時間の流れに挟まれ、幻滅へと落ちた。

月のない夜に、異邦人は闇に包まれて、疲れた顔の影が暗に映った。
「矢のような曲も尽きようとし、美しい合奏は終わりに近寄る」
「広場の冷たい高塔が倒れる時、あなたの笑顔を見てみたい」

異国の杯(いこくのさかずき):素朴な白い磁器の酒盃、かつては歓喜のお酒に満ちていた。
…琴には四つの弦がある。
「楽団」の仲間たちと飲み交した日々が、旅の中での一番楽しい時だったでしょう。
初めは「指揮」と出会った。そして見えない運命の弦が、
剣を笛にする少女と、あの「クロイツリード」を旅人の前に連れてきた。

笑い声が止まらない酒場で、琴師が歌と舞を通じて偶然に出会った少女を仲間に紹介した。
ほろ酔いの旅人は琴を撫でて歌った。

彼らがいて、もう二度と独りの旅をしなくてもいい…
このまま彼らと、旅の終点まで行こう。

別離の冠(べつりのかんむり):春の気配が漂う柳の冠。
…立ち去る旅人は、柳の冠を最後の記念として、
そよ風にのった蒲公英のように、離れ離れになった恋人を心に留めた。

旅人は大陸を放浪する琴師、酒の国の少女はお金持ちの虜だった。
何らかの理由で、放浪人の琴声にはその心が溢れてきた。

「僕が惚れたのは…君の笑顔だ」
「君に出会って以来、まだ見たことがない」
「僕がその鎖をちぎってやる」
「その時は、笑顔を見せてくれ」

「ええ、ありがとう。上手くいけるといいなぁ」
その約束は甘く聞こえるが、琴師の言葉は果たして信じられるものだろうか…